会場は名古屋でした
2008年12月12日更新
日本人の形成過程を再現するには、日本列島各地における各種形質・環境因子の状態ならびに時代的 変化をまず把握しておかなければならない。本セッションは日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究 (S))による研究プロジェクト、「更新世から縄文・弥生期にかけての日本人の変遷に関する総合的研究(課題 番号 17107006)」の一環として開催するものであるが、今回は特に縄文・弥生時代に焦点を当てて、形態・ DNA・食性の観点から分析した人の流れに関する個別的な事例、ならびに、全国的な地理的変異パターン に関する検討結果をも紹介する。
鹿児島県種子島の広田遺跡から出土した弥生〜古墳時代の人骨は、その強度の低顔性や短頭性、非常 な低身長、上顎の側切歯・犬歯を対象とした扁側性抜歯風習、あるいは古代中国との関係を窺わせるような 特殊な紋様を刻んだ大量の貝製副葬品など、我が国の古人骨群の中でもかなり特異な形質、風習を持つ 人々として知られている。その一方で、彫りの深い顔貌や歯の特徴などでは縄文人との繋がりを示唆する結 果も寄せられ、その正確な位置づけは先史日本列島の人の形成過程を理解する上で重要な意義をもつと考 えられる。これまでの琉球列島や周辺域での調査によって得られた知見を絡めて、広田とその周辺域との関 係に新たな検討を加える。
縄文早・前期人は、頭骨も手足も小さくて華奢であるが、多くの形態学的な特徴をそれ以降の縄文人と共 有しているとされている。このことから縄文人は時代を通じて遺伝的に均一で、時代や地域間に見られる差違 は、主に生活環境の違いによって生じたものだと考えられてきた。しかしながら1万年以上にも及ぶ縄文時代 に日本列島に生活した彼らを「縄文人」という単一のグループとして取り扱うことは、日本人の形成史を考える 上で妥当なことなのだろうか。本発表では最近の古人骨のミトコンドリアDNA分析の結果見えてきた、縄文人の遺伝的な特徴について報告し、その妥当性について考察する。
弥生時代は、大陸から伝来した水田稲作農耕によって、それまでの狩猟・採集・漁撈から生業が大きく変 化した可能性がある。稲という新しい食料資源によって、より安定した食生活や大量の食料保存などが可能 になり、食生活ばかりでなく政治経済社会にも大きな影響を与えたと考えられる。特に食生活の変化は顔面 形態に強く影響するので、現生日本人集団の形成を理解する上で重要だが、弥生時代の食生活における稲 の重要性について議論がある。本研究では、縄文時代人骨と弥生時代人骨において、骨コラーゲンの炭素・ 窒素同位体比をもとに、食生態の時代変遷を検討する。
縄文・古墳時代人の脳頭蓋の高さに地理的勾配があることは山口(1981)、百々(1982)、Mizoguchi and Dodo (2001)、溝口(2006)らによって指摘されているが、これらが日本列島内での人の移動の跡を示すもの なのか、環境の地域間差によるものなのかは未だに不明である。本研究では、この問題に一歩踏み込むべく、 縄文・古墳時代の頭蓋・四肢骨計測値における地理的変異パターンと、現代の気温、湿度、降水量などの環 境変数の地理的変異パターンを比較した。その結果、10%の有意水準でではあるが、骨計測値と年平均気 温の地理的変異パターンが、両時代とも、有意に類似していることが示された。
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旧石器時代人骨の形態と年代の再検討
縄文時代早期人骨の形態学的調査とDNA分析
北海道出土の縄文・続縄文時代人骨のDNA分析
弥生時代の枠組み変化による日本人起源仮説への影響の検討
関東弥生時代人の年代・食性・形態の再検討
頭蓋・四肢骨計測値の地理的変異パターンにおける時代間差の分析