旧版「はじめに」および概要
**** 「更新世から縄文・弥生期にかけての日本人の変遷に関する総合的研究」研究班 ****
2010年5月10日更新
[[[ はじめに ]]]
2007.7.7
人さまざまに様ざまな興味を持っていますが、私たち日本人変遷研究班は、日本人の起源、特に弥生時代人、縄文時代人、さらにその前の旧石器時代人の関係に興味を持つ者たちが集まり、皆さんの税金を元手にした科学研究費を使って、この研究プロジェクトを開始しました。開始から2年余りを経た現在、すでにいくつかの新しい成果がでておりますが、その最新成果を少しでも早く、このような研究を容認してくれている社会へ還元しようと、このホームページを立ち上げました。
人類学も含む、いわゆる基礎科学は、すぐに社会に役立つような成果をあげることはできないかもしれません。しかし、長期的な視点から見れば、直接・間接に、確実に生活改善等に役立っていると思います。もちろん、知的好奇心を満足させる、という意味でも社会貢献していることは言うまでもありません。
このプロジェクトが目指す日本人の形成過程のシナリオの再構築は、残り3年弱の研究班存続期間で完成するものとは到底思われませんが、少しでも真実に肉迫できれば、と日々努力をしています。日本人という1つの生物集団が形成された過程を明らかにすることにより、互いの理解が一層深まり、その理解はさらに未来の人類諸集団の繁栄・発展のための指針、あるいは将来の急激な自然・社会環境の変化に対処できる術を与えてくれるかもしれません。
以下に本研究プロジェクトのサブテーマとその概要を示します。これらに対するご意見・ご質問等がありましたら、ぜひこちらまでお寄せ下さい。
[[[ はじめに ]]]
2008.3.21
日本人変遷研究プロジェクトのホームページへようこそ! 私たち日本人変遷研究班は、日本人の起源、特に弥生時代人、縄文時代人、さらにその前の旧石器時代人の関係に興味を持つ者たちが集まって、2005年から共同で研究を行ない、いくつもの新しい知見を得ています。それらの研究成果は学会発表や論文を通じて社会還元されていますが、そのエッセンスだけでも、できるだけ早く知って戴こうと、このホームページを運営しています。是非、最先端の世界をご覧になって、謎解きにご参加下さい。
日本人の起源の研究は今に始まったわけではなく、100年以上の歴史をもつ日本の人類学界の大きな柱の一つです。しかし、特にここで本研究プロジェクトを立ち上げた背景の一つには、日本の旧石器の捏造問題がありました。旧石器の再検討は当然行なわれましたが、同時に日本の旧石器時代人化石の真偽も検討が迫られています。また、加速器C-14年代測定法(AMS)による精密な分析から、弥生時代の開始時期が従来の説よりも数百年もさかのぼる可能性が出てきて、これまでの縄文〜弥生移行期の概念が大きく変わりつつあります。
本研究プロジェクトでは、このような状況をふまえ、形態と遺伝子のデータに基づいて、旧石器時代から縄文〜弥生移行期まで日本列島住民の身体形質がいかに変化したか、という問題を改めて検討し、新たな日本人形成過程のシナリオを構築したいと思っています。
具体的には、以下のような研究課題を設定し、得られた結果を統合的に解釈する予定です。
(1)日本列島で発見されている、いわゆる「旧石器時代人骨」の形態・年代などを、マイクロCT三次元画像分析、多変量統計解析、AMS放射性炭素年代分析などの手法によって再検討し、それらが旧石器時代人骨として妥当か否かを明らかにする。また、日本列島の旧石器時代人は縄文時代人の直接の祖先と見なされうるか否か、という点についても、従前とは異なる統計学的手法によって再検討する。
(2)長野県栃原遺跡出土人骨など、日本列島の縄文時代早・前期人について、形態学的分析とDNA分析をあわせて行ない、縄文時代早・前期人の特徴を総合的に明らかにする。
(3)主として北海道から出土した縄文中・後・晩期人骨を対象にDNA分析を行い、その系譜と進化プロセスを明らかにする。
(4)弥生時代の年代的枠組みの変化が、縄文〜弥生移行期における人口変動と人骨形態変化に関する理解にどのような影響を与えるのか、という点をコンピュータ・シミュレーションにより検討する。
(5)これまでに出土している関東の弥生時代人標本の年代は必ずしも正確に決定されたものではなかったので、そのような弥生時代人標本の年代を再検討すると同時に、彼らの食性も窒素・炭素の安定同位体分析によって検討する。
(6)これまで言われてきた縄文・弥生時代間の人骨形態の断絶性を、頭蓋・四肢骨計測値の時代ごとの地理的変異パターンの多変量解析によって、総合的に分析・再検討し、その要因を明らかにする。
以下に、これまでの分析結果の概要を示します。これらに対するご意見・ご質問等がありましたら、ぜひ本研究班までお寄せ下さい。
[[[ 旧石器時代人骨の形態と年代の再検討 ]]]
沖縄の旧石器時代人「港川人1号」の脳模型
2008.3.5
日本列島からは、縄文時代(約15,400年前〜約2,800年前)よりも古い時代の人骨、すなわち、旧石器時代の人骨はほんの少ししか発見されていません。しかも、そのほとんどが断片的なものばかりの上に、未だに年代や形態が本当に旧石器時代人のものか否か、疑われているものもあります。そこで、私たちは、そのような人骨標本の形態や年代を、最近著しく発達した分析法を使って再検討することにしました。
また、これまでのところ、縄文人の祖先の具体的な候補としては沖縄の港川人(約2万年前)が最も有力ですが、異論もあります。我われの研究班では、この問題についても再検討を行なっています。
詳細な「旧石器時代人骨の形態と年代の再検討」結果
[[[ 縄文時代早期人骨の形態学的調査とDNA分析 ]]]
埼玉県妙音寺洞穴出土
縄文時代早期人男性
2007.7.16
縄文時代早期の長野県栃原遺跡出土人骨群や埼玉県妙音寺洞窟出土人骨などを対象に、形態学的分析とDNA分析の両方を行ない、縄文早期人の特徴を総合的に明らかにすることも考えています。
これまでに栃原遺跡出土人骨の形態記載を一部終了し、また、少なくとも1本の歯のDNA試料の採取に成功しました。愛媛県上黒岩岩陰縄文早期人についても整理・分析を行ないました。
詳細な「縄文時代早期人骨の形態学的調査とDNA分析」結果
[[[ 北海道出土の縄文・続縄文時代人骨のDNA分析 ]]]
北海道の縄文時代人の系統は?
2007.7.16
北海道の縄文時代中・後・晩期人骨を対象にDNA分析を行い、蓄積されている形態学的なデータと合わせて、縄文時代人の系譜と進化プロセスを明らかにすることを目指しています。
これまでに、北海道の縄文・続縄文時代人の系統のある遺伝子の頻度分布は、本土日本人を含む現代東アジア人集団における頻度分布と大きく異なっている、つまり、北海道の縄文・続縄文時代人はかなり特異な集団であったらしいことが明らかにされました。
詳細な「北海道出土の縄文・続縄文時代人骨のDNA分析」結果
[[[ 弥生時代の枠組み変化による日本人起源仮説への影響の検討 ]]]
弥生時代がもっと長かったら、渡来系弥生時代人の増加率は?
2007.7.19
最近、弥生時代の開始期が従来考えられていたよりも500年ほど遡るかもしれない、という新しい年代測定結果が報告されました。もしそうであれば、当時の北部九州人の形態が縄文人的なものから渡来系弥生人的なものへと変化した事実を、これまでのように渡来民の人口増加率を高く見積もらなくても無理なく説明できるかもしれません。
このような仮説を計算機シミュレーション的に検討した結果、その可能性が十分にあることが分かりました。
詳細な「弥生時代の枠組み変化による日本人起源仮説への影響の検討」結果
[[[ 関東弥生時代人の年代・食性・形態の再検討 ]]]
弥生人の食卓はこんなではなかったでしょうね
2007.7.31
関東地方には西日本ほど多数の弥生時代人骨は発見されていませんが、それでも数十個体の報告があります。西日本の渡来系弥生人がいつ、どのように日本列島を拡散し、関東に至ったのか、という問題は、日本人の形成過程を論ずる上でも非常に重要な問題ですが、関東の弥生時代標本の年代は必ずしも正確に決定されたものではありません。本研究班では、最近進歩した年代測定法を使って、そのような弥生時代標本の年代を再検討し、一部が縄文時代や古墳時代に属することを確認しました。
また、弥生時代人がどんなものを食べていたのか、残された人骨標本中の窒素や炭素の安定同位体の量を測って、彼らの食べ物がお魚中心だったか、野菜中心だったかなども検討しています。
詳細な「関東弥生時代人の年代・食性・形態の再検討」結果
[[[ 頭蓋・四肢骨計測値の地理的変異パターンにおける時代間差の分析 ]]]
主座標分析による地理変異パターンの時代間比較
2007.7.31
縄文時代とその後の弥生・古墳時代の間には、身長や頭蓋・歯などの形態において、断絶的とも言えるほどの大きな違いがあると言われています。しかし、その原因が何であるのかの説明は必ずしも十分ではありません。
この時代間の形態差は、一般には、弥生時代に流入した渡来民の遺伝的影響による、とされていますが、もしかしたら、そこに採集狩猟生活と農耕生活の差といったような、人工的な環境差の影響も含まれているかもしれません。この辺りの問題を検討しようと、全国各地から出土した人骨の計測値を多数集め、その地理的変異パターンの時代間差の分析を行なおうと計画しています。
まだ試行的な段階ですが、頭蓋計測値に基づく距離行列の比較分析によれば、確かに縄文時代と古墳時代の間には断絶的とも言えるほど大きな地理的変異パターンの差があります。これが四肢骨などの変異パターンの差とどのように関わっているのか、といったことを綿密に調べれば、それら変異パターンの変化の原因に関するヒントが得られるかもしれません。
詳細な「頭蓋・四肢骨計測値の地理的変異パターンにおける時代間差の分析」結果
[[[ その他、関連研究等 ]]]
外伝 「弥生以降の日本列島の北と南―系統と生活誌復元―」
[[[ まとめモドキ ]]]
2007.8.1
まだまだ研究途上です。しかし、すでに、縄文時代人の祖先候補として、沖縄の港川人以上にオーストラリア旧石器時代人のあるものが有望かもしれないことや、北海道・東北の縄文時代人が東アジア人集団の中ではかなり特異な存在であるらしいことが指摘されるなど、新知見が蓄積されつつあります。
さらに今後の成果にご期待下さい。
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