2008年3月10日更新
旧石器時代人骨の形態と年代の再検討
港川人の身長はすでに推定されているが、新たに脊椎高と頭の高さを考慮して再推定を行なった(馬場)。
沖縄の山下町洞穴から出土している旧石器時代の子ども人骨を縄文時代の子ども人骨と詳細に比較した結果、山下町洞人は形態的にホモ・サピエンスとして矛盾がないことが判明した(海部・藤田・近藤〔修〕)。
新たな旧石器時代人化石を発見すべく、平成18年度に引き続いて、沖縄県南城市玉城奥武のハナンダー洞穴を発掘した結果、絶滅したリュウキュウジカ、リュウキュウムカシキョンなど獣骨化石多数とそれらとの年代関係が不明な断片的なヒト標本が若干数追加発見された。現在、これらの年代(松浦・近藤〔恵〕)や形態を分析中であるが、昨年ハナンダー洞穴から発見されたリュウキュウジカなどの齢推定を行なった結果、その齢構成はかなり高齢に偏っており、狩猟の影響が縄文時代とは異なっていたことが示唆された(諏訪・藤田)。
「ティピカリティ確率(ある標本個体がある集団の一員である確率)」を推定する計算プログラムを開発し、縄文時代人集団とアジア・オーストラリア旧石器時代人化石の類似関係を再検討した結果、縄文時代人の祖先として、これまでその第一候補と目されていた港川人以外に、キーローなどのオーストラリア旧石器時代人化石も考慮しなければならないことが指摘された(溝口・馬場)。
縄文時代早期人骨の形態学的調査とDNA分析
ほとんど未報告のままになっていた愛媛県上黒岩岩陰遺跡出土の縄文早期人骨25体の年齢構成推定や、負傷人骨の性判定など、改めて詳細な分析を行なった(中橋)。
北海道出土の縄文・続縄文時代人骨のDNA分析
東北地方の縄文人を対象としてミトコンドリアDNAの遺伝子型を精査した結果、東北地方の縄文人からも北海道縄文人に多くみられたハプログループN 9 bおよびM 7 aが検出され、北日本の縄文人においてはこれらがミトコンドリアDNAの遺伝子型の中心となっていることが示唆された(安達・篠田)。
弥生時代の枠組み変化による日本人起源仮説への影響の検討
弥生時代の枠組み変化の問題提起を機に、改めて縄文時代後・晩期人と弥生時代人の類縁関係を形態学とDNAの双方の面から再検討することにしているが、平成19年度は、主として南九州と沖縄の縄文・弥生遺跡から出土した人骨の収集とDNA分析を行なった(篠田、2007)。
関東弥生時代人の年代・食性・形態の再検討
食人を伴った特異な解体埋葬として有名な神奈川県大浦山洞穴資料について再検討を行なった。その結果、人骨と獣骨は、出土部位の構成パターンや各部位の損傷比率パターンでは類似性が高いが、前者が後者よりも意図的に破壊され、洞穴内にばら撒き埋められていた点では異なる傾向を示す、ということが数量的に再確認された(諏訪・佐宗)。
東京大学総合研究博物館に保管されている弥生時代人骨について直接的に高精度放射性炭素年代を測定して、その帰属年代を確認し、縄文時代から弥生時代への形態変化について明確な時間軸を与えることを目標としているが、これまでに、千葉県安房神社遺跡出土の大腿骨15点と頭蓋骨2点、さらに佐野洞窟7個体、毘沙門2個体から試料を取り、コラーゲンを抽出している。また、広島県名越遺跡出土人骨3点および獣骨20点については年代測定を終えた(米田)。
千葉県市川市に立地する貝塚遺跡について縄文時代中期から後期の人骨資料からコラーゲンを抽出し、炭素・窒素同位体比を測定した結果、遺跡数や規模が大きく変化する中期から後期にかけて、同位体の傾向はあまり変化していないこと、また、遺跡間でも顕著な違いがないことが示された(米田、2008)。来年度は、本年度までに前処理を行った弥生時代人骨について、安定同位体を測定し、さらにアミノ酸における同位体分析などから海産物の定量的評価を実施する計画である。
頭蓋・四肢骨計測値の地理的変異パターンにおける時代間差の分析
群間変異の原因を探るための基礎的研究として、脳頭蓋と顔面頭蓋の計測値の間の群内相関の多変量解析を行なった。結果、期待に反して、脳頭蓋3主径のいずれかと男女ともに有意な関連を示すような顔面計測値は見つからなかった(溝口)。このようなことが群間変異の背景にあるならば、地理的変異や時代的変化の解釈も形質相互相関の性差を念頭において行なわなければならない。男性データのみに基づく多くの研究に警鐘を鳴らす分析結果である。
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頭蓋・四肢骨計測値の地理的変異パターンにおける時代間差の分析