地衣類は菌と藻の共生体で岩上、地上、樹皮上などにみられます。地衣体(地衣類のからだ)の大きさも直径数ミリ以下の小さいものから、数メートルを越える大型のものまでさまざまです。また、生育形も岩や樹皮にぴったりと固着するものから、葉状、樹枝状など複雑に分化したものまで非常に多様性に富んでいます。
地衣類の種は地衣体や生殖器官の形態的特徴の他に地衣体に含まれる含有成分(地衣成分ともよばれる)の種類も分類形質として利用されます。野外で採集してきた地衣類は形態が観察しやすく、地衣成分の検定が容易に行えるように形を整えて標本棚に収納されています。このため、地衣類の標本は、顕花植物のようにさく葉したものの他、固着地衣類が附着する石を直接台紙にはりつけたもの、小さな箱に入れられたものなど様々です。
植物研究部には南極、北極域から熱帯域までを含む地球の広範囲な地域で収集された約25万点の地衣類標本が収蔵されています。これらは、一般標本(約23万点)、エキシカータ標本(約2万点)、
基準標本(約1000点)に分けて格納されています。一般標本と基準標本は、属名及び種小名のアルファベット順に並べ産地毎にまとめて配列されています。“エキシカータ”はラテン語で乾燥した植物、転じて乾燥植物標本集を意味し、副基準標本が多数含まれており、分類学的研究を進める上で極めて利用価値が高いものです。国立科学博物館でも地衣類のエキシカータ「
稀産地衣類標本集」(1994-2008, 2010-)を出版しています。
国立科学博物館の地衣類標本は、朝比奈泰彦博士が寄贈された約8万点の標本を基礎としており、その後、黒川 逍、柏谷博之、大村嘉人等により収集された標本を加えて整備されてきました。これらは世界的に見ても質・量共に非常に優れているとの評価を受けており、内外の研究者に利用され研究論文に引用される回数も年間100件を越えることもあります。