火山国日本−新たな予報・警報はじまる− (協力:地学研究部 佐野貴司)
火山噴火のメカニズム
日本では,東日本で北米プレートの下に太平洋プレートが,西日本ではユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが,伊豆半島から小笠原諸島では、フィリピン海プレートの下に太平洋プレートがそれぞれ沈み込んでいます。4枚ものプレートが互いにぶつかり合う場所は世界にも他に例がなく,日本を世界有数の地震国,また火山国としています。
日本の火山は,プレートの境界に平行に分布しています。
プレートが沈み込んで行くと,周辺のマントルには大きく分けて2つ変化が起こります。
第1には上層からプレートが侵入して来ることによって,マントルの対流が変化し,より深部の高温のマントル物質が上層部に運搬されてきます。
第2には,海に由来する多量の水分が他のプレートの下に沈み込むことで,岩石がより低い温度で融解するようになるのです。融解するのは通常上層のプレートですが,沈み込むプレートが若く高温の場合には沈み込んだプレート自体が融けてしまうこともあります。
こうして融けたプレートや沈み込むプレートの上位に存在するマントルなどがマグマとなります。マグマは高温の液体のため,周辺の岩石よりも比重が軽く,浮力によって次第に上昇してきます。しかし地表から5〜20km程度の比較的浅いところまで来ると,周囲の岩石もより深いところに比べると圧力を受けていないため比重が下がり,マグマとほぼ同程度になります。こうなるとマグマは浮力を失うため,その深さに留まり溜まっていくことになります。これがマグマ溜まりです。
マグマ溜まりに溜まったマグマが地上まで上昇して噴火を起こすきっかけはひとつではありません。更なるマグマの上昇によってマグマ溜まりがいっぱいになり溢れた場合,プレートの運動によってマグマが押し出された場合,マグマ中の火山ガスが気化して発泡し,マグマ溜まりの内圧が高まった場合などがあります。
火山が形成される場所は日本のような海溝付近のほかに,中央海嶺とホットスポットがあります。
中央海嶺では地下深部から上昇した熱いマントルが浅部で融解してマグマが生産されています。溶け残ったマントルはプレート下部を,溶けたマグマはプレート上部の海洋地殻をつくっています。中央海嶺は連続的に分布する長い嶺となって野球ボールの縫い目のように地球をぐるりと取り巻いています。多くの中央海嶺は東太平洋や大西洋中央部などの海底に見られますが,地表に見られる部分も存在します。これが東アフリカのグレート・リフト・バレーであり,活発な火山活動と共にアフリカを東西に拡大・分割させつつあります。地球上に噴出するマグマの80%は中央海嶺で生産されています。
ホットスポットはプレートの動きとは関係なく,地表の特定の場所にマントルからマグマが継続的に供給されている場所のことです。その上に乗っている地殻やプレートを突き破る形で火山として噴出しています。最も有名なホットスポットはアメリカ・ハワイ島の下にあり,ハワイ島の火山活動を引き起こしている他,ハワイ島南東の海底に新たな海底火山,ロイヒ海山を形成しています。
マグマの性質や構成成分,マグマに含まれる水蒸気などの火山ガスの量の違いによって,地表に現れる噴火の有様は大きく異なったものとなります。
マグマの流動性が高く,火山ガスが少ない場合の噴火では,爆発や噴煙はないことが多く,地表を大量の溶岩が高速で流れ広がります。ハワイ島のマウナロア,キラウエア火山で見られます。
マグマの流動性がやや低くなると,比較的短い周期でマグマや火山弾が放出される噴火が起こります。日本では阿蘇山の活動が活発なときに見られることがあります。
更に流動性が下がると,溶岩が流れにくくなるため雲仙普賢岳の噴火の際に見られたような溶岩円頂丘(ドーム)が形成されます。
流動性が高く火山ガスが多い場合には,マグマは噴煙と共に幅広く,また高く吹き上がることになります。1986年,伊豆大島・三原山の噴火では,火口と山肌にできた割れ目から間欠泉のようにマグマが吹き上がり,噴煙の高さは最も高いところで1万メートル以上に達しました。
流動性が低く火山ガスが多い場合は,噴火は爆発的となり,火山灰や火山弾が大量に放出されます。溶岩流の速度は遅く,流れというよりゆっくりと押し出されるような様相になります。日本の火山ではこのタイプの噴火が最も多く,桜島や浅間山などが代表的です。
なお,日本では火砕流噴火も良く起こります。火砕流とは火山噴出物であるマグマ,火山ガス,火山灰等の混合物が高速(時には時速100kmを越える)で山体斜面を流れ下る現象です。火口から爆発的に噴出した火山噴出物が周囲の空気をうまく取り込み,空気を膨張させて上昇気流を発生させると噴煙噴火となりますが,うまく取り込めないと,火山噴出物は火砕流となって斜面を流れ下ります。
溶岩ドームを形成するタイプの噴火でも,火砕流が起こることがあります。ドーム内にガスが残ってしまっており,なおかつ新たなマグマの噴出やガス自体の圧力によってドームが崩壊した場合です。1990年に始まった雲仙普賢岳の噴火では,このタイプの火砕流が複数回発生し犠牲を出しました。
また,1回の噴火の途中に噴火の様子が変化して行くこともあります。
はじめのうちマグマや火山灰を吹き上げるタイプの爆発的噴火であったものが,火山ガスが少なくなり,溶岩の流出に変化して行きます。