速報:ノーベル物理学賞受賞 「対称性の破れ」と「小林・益川理論」(協力:理工学研究部 田辺義一,洞口俊博)
宇宙誕生と素粒子(※2)論の基礎
私たちが今存在しているこの宇宙は,いつ,どのように誕生したのでしょうか?
現在最も有力な考え方とされている「ビッグバン理論」によると,宇宙は今から約137億年前,極めて微小・高温・高エネルギー・高密度の状態で始まりました。
その状態より前については現在明確な理論がないため,これを誕生と呼ぶことにすると,宇宙は誕生以来膨張と冷却の歴史を辿って来ています。
誕生からおよそ10
-43秒後までの世界については,未だ判っていることは多くありません。後に4つの相互作用と呼ばれる,「重力」「電磁気力」「弱い相互作用(素粒子の間に働く,ごく近距離のみで作用する力。原子核のβ崩壊に関わる)」「強い相互作用(核力)」の4種の力が分離していなかった時代とも言われますが,それを説明する理論は完成されていません。
10
-43秒を過ぎると,宇宙の冷却と膨張によって相互作用や素粒子がそれぞれ分離・誕生するようになります。
10
-36から10
-34秒後,空間が全ての方向に同じスピードで指数関数的に膨張する「宇宙のインフレーション」が発生,宇宙は微視的な大きさから,「観測可能な大きさ」にまで成長しました。
この急激な膨張が終わった時(インフレーションは終了したとも,形を変えて続いているとも言われており結論は出ていません)宇宙は,「クォーク」と「レプトン」に支配されていました。
クォークは陽子や中性子,中間子などを構成する素粒子で,軽い(エネルギーの低い)ものから順に「アップ」「ダウン」「ストレンジ」「チャーム」「ボトム」「トップ」の6種類が現在見つかっています。またそれぞれが,自身と同じ質量を持ち,反対の性質を持つ(色荷,カラーなどと呼ばれますがここでは割愛します)反粒子,「反クォーク」を持っています。
原子は原子核と電子から,原子核は陽子と中性子からできていますが,陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個,中性子はダウンクォーク2個とアップクォーク1個からなります。陽子や中性子のようにクォーク3個からできている粒子をバリオン,中間子のようにクォークと,性質の異なる反クォークそれぞれ1個からできている粒子をメソン,またバリオンとメソンをまとめてハドロンとも呼びます。
レプトンはクォークよりも軽い素粒子で,クォークとは異なり「強い相互作用」の影響を受けません。1個で独立して存在でき,電子や陽電子,ニュートリノがそうです。
宇宙が成長を始めた最初期には,高温のためにクォーク同士は結合せず,それぞれ単独で存在していました。しかし10
-6秒後から1秒後までの間に,宇宙の温度はおよそ1兆度にまで下がり,エネルギーの低下によってクォークは結合してハドロンとなりました。
対応する粒子と反粒子は,衝突すると消滅し,エネルギーまたは他の粒子に変換されます。これを対消滅といい,宇宙の初期に生まれたハドロンと反ハドロン,レプトンと反レプトンはほとんどが対消滅しました。
生まれた粒子と反粒子の数が全く同じであれば全てが対消滅し,後には何も残らなかったかもしれません。しかしここまで至る間に何らかの理由で,粒子の数が反粒子の数を上回るようになっており,最終的に一部の粒子が消滅することなく残りました。
宇宙誕生から約3分後,ハドロンのうち陽子と中性子が結合し,最初の原子核がつくられ始めました。
およそ38万年後,宇宙の温度は3千度まで低下し,原子核は電子を捕獲して原子となりました。それまで光と衝突してその進路を妨げていた電子が原子に取り込まれたことで,光は物質に干渉されることなく直進することができるようになりました。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼び,これ以降の宇宙は現在の地球からも観測することができます。
※2 素粒子とは,物質を構成する最小の単位であり,それ以上細かい構造に分けることができないものとされています。陽子や中性子もかつては素粒子と考えられていましたが,現在は更に細かい構造,クォークに分けられることが判ったため否定されました。クォークがもし更に微小な何かの集合体であった場合,その「何か」が素粒子となりクォークは素粒子ではないということになりますが,今のところその可能性は示唆されていません。
写真:地球館地下3階で公開中の『宇宙の歴史』映像より