日食観測を楽しもう! (協力:理工学研究部 西城惠一)
太陽活動と私たち
「最近太陽に元気がない」そんな話を聞いたことがありますか?
太陽はおよそ11年の周期で,活動の活発な時期と静穏な時期を繰り返しています。最近では1996年に活動レヴェルの最も低い極小期,その後次第に活発化し,2001年に最も活動的になる極大期を迎えました。そして再び沈静化へ向かい,当初の予測では2008年初頭を極小として,2012年頃に次の極大を迎えるものと考えられてきました。ところが2008年の太陽の活動は,次の極大へ向けた上昇を見せず,極めて低いレヴェルのまま終わってしまったのです。
太陽活動を示すバロメーターのひとつが,太陽の表面に観察できる黒点の数(※1)です。活動の活発な時期にはほぼ毎日観測でき,1年間の出現数は100個を超えることもあります。2001年の極大時現れた巨大な黒点群は,日食グラス(詳細後述)を使えば肉眼でも確認できたほどでした。
しかし2008年には黒点の全く見られない日が1年の73%にあたる266日(NASA調べ,以下同)を数え,同じく250日を越えた1912年(最多は1913年の311日)以来,100年ぶりの記録として話題になりました。2009年に入っても無黒点日は続き,3月31日までの最初の3ヶ月では78日(87%)にも上りました。
同じく2008年には,太陽風の風圧が1990年代半ばの記録と比較して約20%低下,太陽の明るさ(輝度)も1996年の極小時と比べて可視光で0.02%下がりました。
今年6月に入ってようやく,黒点数は若干の回復を見せてきました。黒点周囲ではフレア(太陽表面での爆発現象)も観測されており,極大に向かう傾向が見えてきたと考える専門家も増えて来ました。このまま推移すれば次の極大は,予定より約1年遅れて2013年5月頃になりそうです。
太陽の活動が活発な時期には,フレアの頻度・強度が高まる傾向にあります。フレアが発生すると多量のX線,ガンマ線,高いエネルギーを持った荷電粒子が惑星空間に放出され,それらが地球に到達すると人工衛星やGPS,無線通信,送電線などが故障,または一時的に乱れる可能性があります。大気圏外に滞在中の宇宙飛行士には放射線被爆の危険もあります。
それでは逆に,活動レヴェルが低い状態が続くと何が起こるのでしょうか?
記録に残っている最も大規模な太陽活動の低下は1645年〜1715年,約70年に渡って黒点がほとんど現れない時期が続いたものです。太陽黒点数の記録を整理・研究していたイギリスの天文学者,エドワード・マウンダー(1851〜1928)によって確認されたため,マウンダー極小期と呼ばれています。
この時期の地球は,14世紀半ばから19世紀半ばに掛けての『小氷期』と呼ばれる寒冷な時代の只中にありました。マウンダー極小期はその中でも特に気温の低かった時期にほぼ一致し,地球の平均気温は西暦2000年と比較して約1.5℃低かったものと考えられています。
平均気温が1度下がると,植物が生育できる期間は約3,4週間短くなります。また作物を育てることのできる畑の高度は約170メートル下がります。耕地面積と耕作期間の減少はヨーロッパ各地に繰り返し飢饉をもたらしました。
栄養と日照の不足は人間の健康状態悪化にも繋がります。1665年にはロンドン,1720年にはフランス,マルセイユでペストが流行しました。マルセイユでの流行では市内及び周辺地域でおよそ10万人の犠牲者を出しました。
しかし一方で,太陽活動の低下が必ずしも,地球の寒冷化,或いはこの時代の人間活動に影響を与えたとは限らないことには注意しておく必要があります。
17世紀半ばから18世紀初めにかけての太陽活動の低下と寒冷化は,確かに時期的に重なっています。しかし,大規模な火山活動など他の原因があった可能性も示唆されており,因果関係は未だはっきりしません。
※1 黒点の数は,個人によって,また観測の条件によってばらつきが出る可能性があるため,1980年まではスイスのチューリッヒ天文台,1981年以降はブリュッセルにある黒点数データセンターで相対化しています。
写真:活動期,2001年に撮影された太陽(NASA)