2009-08-01

夏休み,生き物たちに親しもう! ― 生き物の『多様性』のひみつ (Part 1)

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※この記事は以下のページで構成されています。ご覧ください。
『多様性』って何だろう?
日本列島の豊かな自然
日本の自然が抱える問題
生き物たちに会いに行こう!

日本列島の豊かな自然

 日本列島は,世界的に見ても生物多様性の豊かな地域です。
 日本の国土は,陸地だけでみればおよそ38万平方キロメートル。世界的に見ても広い方から数えて60位と,大きい方とは言えません。
しかし日本には多様な生き物を育むことができる秘密がたくさんあります。

 まず第1に,日本の国の形です。日本は南北に長く連なる列島で,北海道・宗谷岬の先端から沖縄県の八重山諸島までの直線距離はおよそ2,600キロあります。北極から赤道までの距離がほぼ1万キロですから,その4分の1以上にもなるのです。
 第2は,国のある場所です。極地にも赤道にもそれほど近くない,中緯度帯に位置しています。
 この形と位置のお陰で,日本はひとつの国の中でも,北と南では季節の移り変わりが全く違っています。例えば2007年の3月の札幌の平均気温は摂氏0.9度(気象庁調べ,以下同じ),雪も残る冬景色でしたが,沖縄県の石垣島では平均気温21.6度,下旬には日本一早い海開きも行われ,夏へと向かい始めていました。
 少し難しい言い方をすると,日本は北から亜寒帯・冷温帯・暖温帯・亜熱帯の4つの気候帯に属しています。北海道は亜寒帯,南西諸島や小笠原諸島は亜熱帯,他の地域は温帯です。気候帯の違いはその場所に育つ植物の違いとも言え,植物が変わればそれをすみかや食糧として利用している動物の種類も変わります。

 第3に,山が多いことです。山がたくさんできた理由はここでは説明しませんが,日本は国土の70%を山地が占める「山国」です。高い山がいくつも連なってできた山脈もあちこちにあります。
 山脈は海の湿り気を含んだ風を遮って,山の手前に雨や雪を降らせます。山脈を越えた後の風は湿り気を失って乾いています。
 夏には北太平洋高気圧から噴き出す南東の風が強くなるため,太平洋側で蒸し暑くなり,夕立など雨が降りやすくなります。冬にはシベリア高気圧からの北西の風が強まり,日本海側で雪が増えます。
 東京からのスキー客も多く訪れる新潟県の湯沢から東京都の丸の内までは直線距離で約160キロ,新幹線ならだいたい1時間20分ほどで,東京から遠い印象はほとんどありません。ところが,間にある越後山脈の影響により,2ヶ所で降る雪の量は大きく変わります。2009年1月の1ヶ月間に降った雪の量を比べると湯沢では246センチ(アメダスでの観測のため,スキー場での積雪量とは異なります),東京では雪が降った日は3日あったものの,積雪はほぼゼロでした。
 
 山では高く登るほど,周りの気温が低くなります。気温の下がり方は空気がどれくらい湿っているかで変わりますが,乾燥した空気ならだいたい,100メートル登るごとに1度気温が下がります。山の標高にもよりますが,同じ山のふもとと頂上で,生えている植物が全く違う,ということもあります。
 日本アルプスなど中部地方の山々で多く見られる高山植物には,氷河時代に平地に生えていた植物の生き残りが含まれています。氷河時代が終わって気温が上がった時,気温のより低い高山へ追いやられたと考えられています。

 第4に,国を取り囲む海と海流の存在があります。
 日本は周りを海に囲まれた島国です。海岸線は複雑な形のリアス式海岸や岩場・砂浜など変化に富んでいます。
 日本の周りの海流は,太平洋側・日本海側それぞれに南からの暖流と北からの寒流が大陸に沿って流れ込み,ぶつかり合っています。
 太平洋側の暖流,黒潮はフィリピン沖から北上して来ます。黒潮の影響を最も大きく受ける南西諸島や九州南部沿岸では,夏の海水の表面の温度は30度を超え,冬でも20度を下回ることはありません。この海域の比較的浅いところ(深さ100〜200メートル程度まで)では,黒潮に乗ってやって来た熱帯・亜熱帯の生き物が多く見られます。
 千葉県房総半島よりも南の太平洋側では,本当ならば熱帯・亜熱帯の海で暮らしているはずのチョウチョウウオやスズメダイなどの熱帯魚が見つかります。卵や稚魚のうちに黒潮に運ばれて来るのですが,生きられるのは夏のうちだけで,冬に水温が下がると死んでしまいます。

 太平洋側の寒流,親潮は北部北太平洋,千島列島付近から南下して来ます。北海道や東北北部が特に大きな影響を受けます。この海域の表面の水温は冬には0度近くまで下がり,夏でも20度以上になることはありません。黒潮と比べ栄養分が豊富で,雪解け水などの淡水が流れ込みやすいため塩分濃度は低めです。黒潮よりも深いところ,およそ400メートル程度まで影響を与えており,亜寒帯の生き物が数多くやって来ています。

 黒潮と親潮の両方が流れ込んでいるのが,三陸沖から千葉沖にかけてです。2つの海流がどのあたりでぶつかるのかは年や季節によって変わりますが,2つの海流が運んで来た南北両方の生き物が集まって良い漁場になります。

調べてみよう!

夏休み,どこかへ旅行に出かけたら,
自分の住んでいる近くでは見たことがない生き物がいないか探してみましょう。
見たことのない生き物に出会ったら,
その生き物がどうして家のそばにはいないのか考えてみましょう。

行ってみよう!

国立科学博物館日本館では,3階『日本列島の素顔』,2階『生き物たちの日本列島』で
日本に暮らす生き物たちとその生態を紹介しています。
このページではお話し切れなかった,日本列島の生物多様性の秘密もまだまだあります。


写真:国立科学博物館日本館『日本列島の素顔』より,黒潮温帯海域の海


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