2009-08-01
夏休み,生き物たちに親しもう! ― 生き物の『多様性』のひみつ (Part 1)
日本の自然が抱える問題
豊かで身近な日本の自然。これまでもこれからも,ずっと私たちのすぐ傍にあって,私たちを楽しませてくれる…でしょう,と言えたら良かったのですが,残念ながら日本の自然は今,さまざまな問題を抱えてしまっています。危険な状態になってしまっている場所や,生き物たちもいます。
元々人間の手があまり加わっていなかった山や森,世界自然遺産にも登録されている北海道の知床や鹿児島県の屋久島には,自然に親しもうとするたくさんの人が訪れています。
しかしあまりにもたくさんの人がやって来たために,ゴミやトイレの処理が追いつかなかなかったり,植物が踏み荒らされて傷んだり枯れたりするという問題が起こるようになってしまいました。
人間から餌を与えられたり,人間がポイ捨てしたゴミを拾って食べて,「人間のいるところには食べ物がある」ことを動物が覚えてしまうこともあります。餌の欲しくなった動物が人間の傍に近づいて来たり,人間の家に入り込んだりするようになると,襲われたり部屋を荒らされたりと思わぬトラブルが起こることがあります。
森や島に1度に入れる人数を制限するなどの対策が考えられていますが,少しでも自然をいためないよう,ゴミは捨てずに持って帰る,動物は見るだけにして,触ったり餌をやったりしないなどのマナーを必ず守るようにしましょう。
キノコやタケノコを採りに行ったり,薪や炭,家を建てる材料として使える木を植えたりと,人間が積極的に利用し,関わってきた山や森を「里山」と言います。里山は元々人間が住んでいた場所のすぐ傍にあり,採り過ぎ,使い過ぎを防ぐため,近隣の人々によって厳しく管理されてきました。
しかし1950年代の後半ごろから,里山は2つの意味で次第に失われるようになりました。都市の人口が増えたことにより,郊外にあった里山の多くが切りひらかれて住宅地になりました。切られずに済んだ里山も,近くに住んでいた人々が都市へ出て行ってしまったために管理する人がいなくなったこと,薪や炭の代わりとなる燃料として石油が使われ始めたために利用する人が減ったことなどにより次第に荒れていきました。
人間が里山に植えていた木は,クヌギやアカマツなどでした。クヌギは成長が早く,10年ほどで木材として使うことができます。樹液にはカブトムシやクワガタムシが集まり,枯れ木にはシイタケが生えます。アカマツの葉や枝は樹脂を多く含み,たいまつや陶芸窯の燃料として優秀です。木材は軽く強いため,家を建てる材料として育てられていました。林の地上に生えるマツタケも大きな魅力です。
これらの木が成長するためには,たくさんの日光が必要です。大きな木が既にたくさんある森では,人間が周りの木を切ったり,枝を落としたりして苗に日光を当ててやらなければ育つことはできません。
里山を利用する人間が減ったことで,森の木は成長に日光が多く必要なものから,日光をそれほど必要としないものへと変化しつつあります。その結果,これまで里山で暮らして来たカッコウやモズ,ムクドリなどの数が減ったという報告もあります。
人間の手が加わらない,より自然な状態の森に変わって行くことを良いことだと考える人もいます。しかし一方で,これまで里山で暮らしてきた動物・植物たちの多くは,里山以外の森で生き続けることは難しいと考えられています。
自然のままに放っておくのが良いことなのか,人間が手を貸すことで里山の状態を保つ方が良いのか,決めるのは簡単ではありません。
写真:日本館2階常設展示『日本人と自然』より,江戸期の水田と里山ジオラマ