夏休み,生き物たちに親しもう! ― 生き物の『多様性』のひみつ (Part 2)
生き物たちを守る取り組み
外来生物をはじめとして,生き物たちを取りまく状況には,日本の中だけでは解決が難しい問題も多く含まれています。
世界の生き物の多様性をどう守って行くのか ― 1992年,国連で『生物の多様性に関する条約』が採択されました。
この条約の目的は大きく分けて,地球上の多様な生き物を,生息している環境とセットで守っていくこと,同時に人間がこれからも,数を減らしたり絶滅に追いやったりすることなく,食糧や材料などとして生き物たちを利用していけるようにすること,ある国の生物の遺伝子を別の国が資源として利用する(※1)時,資源を持つ国と利用する国とが公平に利益を得られるようにすることの3つです。
締約した各国には,国内の多様性を守り,資源としても利用しつづけることができるように国として計画を立て,行動することが求められています。
これを受けて日本でも1995年,『生物多様性国家戦略』が取り決められました。各土地・各地域の自然の状況に合わせた保全を行うと同時に,日本の自然や生物についてより良く理解すること,資源として利用する場合にはどれくらいの量なら採っても生物や生息地へのダメージを与えずに済むのかを知ることが大きな目標とされました。
この戦略を見直す形で2002年『新・生物多様性国家戦略』,2007年には『第3次生物多様性国家戦略』が決定されました。
最新版の『第3次』では,これまでの100年間で傷つけてきた日本の生態系を,これからの100年を掛けて再生することが目標として掲げられました。
そのために今日本が抱えている課題として,開発や獲りすぎの影響による種の絶滅や個体数・生息地の減少,人間が手を掛けなくなった里山,外来種の3つが挙げられています。
国の具体的な戦略は『生物多様性』について広く知ってもらうこと,離れてしまった人間と自然の関係を結び直すこと,森・里・川・海をそれぞれ別々に考えるのではなく,ひとつに繋がったまとまりとして考えていくこと,更には日本だけでなく,地球全体を考えて行動することの4つです。
※1 人間をはじめさまざまな生物がどのような遺伝子配列を持っているのかという研究は,この10年の間に急速に進展しました。それに伴って,特定の生物の遺伝子情報が,農業における新品種の育成や,新薬の開発などに有用であることも明らかになってきました。
遺伝子情報そのものは,特許など知的財産権の保護の対象にはなりません。しかし,情報が新たな種苗や薬の生産など,産業に役立つものだとわかった場合は出願によって保護されます。
保護を受けた人物や会社(以下,権利者と書きます)は,製品だけでなく,生産方法や生産に利用した遺伝子の情報についても,売却したり,希望者に有償で利用させたりして利益を得ることができます。
一方で資源を提供した国の方は,自国の資源を使って種苗や薬を生産したくても,権利者から許可を得なければつくることができません。権利者が手にした利益を分けてもらうこともできません。
これでは不平等だとして,資源保有国は利益の公正な分配を求めました。しかし,この主張を認めれば,結果として権利者の利益は減ることになるため,先進国の一部で反発が起こりました。
『生物の多様性に関する条約』には,目的のひとつとして遺伝子資源がもたらす利益の公正な配分を掲げています。自国の権利者の利益を保護するため,として,例えばアメリカは1993年に署名したものの,今も締約を拒否しています。