美味しい?危ない?きのこの秘密 (協力:植物研究部 保坂健太郎)
きのこを育てる
日本のきのこの国内生産量は平成19年度で44万2千トン(農水省調べ,以下同)。海外からの輸入量は9万2千トン。国民ひとりあたりでは,輸送や加工の段階で失われる部分を除いて,1年間におよそ3.4キロを食べている計算になります。
現在一般に食べられているきのこは,多くが栽培きのこです。国内生産量の約95%が,栽培トン数の大きい方からエノキタケ・ブナシメジ・シイタケ・マイタケ・エリンギ・ナメコ・ヒラタケ・マツタケの8種で占められており,特にエノキタケとブナシメジはそれぞれ10万トンを超えています。
きのこの栽培方法には,大きく分けて原木栽培・菌床栽培・堆肥栽培の3つがあります。
原木栽培は,枯死または伐採された天然の木に菌を植え付ける方法です。例えばシイタケの原木栽培では,コナラヤクヌギなどナラ科の広葉樹(使用前に一定の処理を行えば,一部の針葉樹も使うことが出来ます)を伐採して丸太状にし,2ヶ月程度乾燥させた後,菌を植え付けます。菌を植え付けた状態の木をほだ木と呼びます。
植えたばかりの菌は表面から乾燥しやすいため,菌がほだ木に定着するよう,植え付け直後から適切な湿度管理が必要になります。
菌が定着したら,次は菌糸が成長できる環境にほだ木を移動させます。森や林の中で気温が28度以上に上がらず,比較的風通しが良く,直射日光が当たらない場所が適します。
ほだ木の中で充分に菌糸が成長するまでに,約1年が必要です。菌糸からきのこを生やせる段階まで成長したら,湿度の高い場所に移動させ,きのこの成長を待ちます。
原木栽培は原木の獲得やほだ木の移動などに人手がかかり,乾燥や菌の定着のための時間もかかります。屋外での栽培のため,気象条件や害虫の発生に収量が左右されやすいという悩みもあります。
一方の菌床栽培は,おがくずなど木や他の植物を原料とした人工の培地に養分を加え,そこに菌を植える方法です。培地は瓶や袋など,栽培したいきのこに合った容器に入れられ,植え付けから収穫まで全ての工程が温度・湿度・光量などが管理された室内で行われます。
マイタケには広葉樹のおがくずでの袋栽培,エリンギやエノキタケ(白く細いもの),ヒラタケではスギ科のおがくずを使った瓶栽培が行われています。
菌糸やきのこの成長に適した環境を人工的に作り出すことができるため,原木栽培ではきのこが育ちにくい季節の収穫や,1年に複数回の収穫も可能です。また,雑菌や害虫の影響を受けにくいため,マイタケをはじめ雑菌に弱く原木栽培が難しいとされてきたきのこも栽培できるようになりました。
培地作りや菌の植え付け,環境管理,収穫など多くの工程が機械化され,栽培の手間も大きく減りました。ナメコ,ヒラタケは原木栽培から菌床栽培への移行が進み,シイタケも生シイタケは70%以上が菌床栽培になっています。
しかしその一方,原木栽培で多く使われてきた雑木林の木の利用が減り,里山に人間の手が入らなくなった一因になっているとの指摘もあります。
堆肥栽培は稲わらに家畜の糞などを加えて発酵させた堆肥を培地として使います。マッシュルームの栽培に向きます。
これらの栽培方法はいずれも,枯れ木や落ち葉など,既に生きていない植物を栄養源とするきのこに適した方法です。
生きている木やその他の生物に寄生したり,他の生物と共生するタイプの菌の培養には,培地ではなく菌が必要としている生物そのものを用意する必要があります。
『マツタケの人工栽培は難しい』とよく言われますが,これはマツタケがアカマツなど,生きている木の根と共生しているためです。生きた木の根がマツタケにどのような恩恵を与えているのかはよく判っていませんが,今のところ生きた木の根がなければ,マツタケはきのこを作ることができません。
マツタケの栽培は林地栽培といい,マツタケの共生相手となる木を管理し,マツタケが生えやすい環境を維持しています。生きた木に直接菌を植えようという試みもありますが,未だきのこを得るには到っていません。
まとめ
@ 現在日本で食べられているきのこのほとんどは栽培きのこです。
A 主な栽培方法は原木栽培,菌床栽培,堆肥栽培の3つです。
このうち菌床栽培が最も広く普及しています。
B 現在栽培されているきのこのほとんどは,生物の遺体を分解し栄養源とするきのこです。
マツタケなど,生きた生物と共生しているきのこの栽培は容易ではありません。
|
写真:原木栽培によるシイタケの栽培
きのこの上に白く見えるのは菌糸を植え付けた痕(Wikipedia)