2010-09-24

海に棲んでいる哺乳類たちについて知ろう!“海棲哺乳類の多様性―東アジア沿岸域の現状―”


沿岸域の海棲哺乳類との共生---海の哺乳類と私たち

○ 水族館における海獣類の保護
日本の沿岸では海獣類の漂着が数多く確認されています。このうち、生存しているが海に帰すことのできない個体の保護収容施設となっているのが動物園・水族館です。(社)日本動物園水族館協会が実施している血統登録台帳によると、過去40年間に22種523個体の保護例が報告されています。鴨川シーワールドでは、1970年のオープン以来、17種39頭の海獣類を近隣地域より保護収容しています。これらの個体は重篤な状態で収容されることが多く、獣医学的な治療とリハビリテーションにより健康状態の回復を図っています。保護収容個体の飼育を通して、飼育や医療技術の向上がもたらされ、新たに生物学的な知見を得ることができます。また、展示を通して一般の方への関心を高めることで、社会教育上で重要な機会にもなるでしょう。

○ 台湾でのイルカ・クジラに対する意識の変革
台湾における鯨類保全が始まったのは1990年の春、国内外のメディアによって、膨湖(ポンフー)諸島での漁業者によるイルカ殺戮が報道され、批判されて以来のことです。同年8月には鯨類全種が,1989年に制定された野生生物保全法(Wildlife Conservation Act)による保護種のリストに加えられました。鯨類の研究とそれに関連した一般の方への教育プログラムは、それ以来拡充されてきました。2つの主要な成果として、1) 1996年には全土をカバーするストランディングネットワークができ、鯨類のストランディングに多数の機関が関与することになったこと、2) 台湾におけるホエールウォッチング産業は1997年に発足して以来、年間20万人が楽しんでいること、です。

最近では、台湾西海岸の沿岸域に棲息するシナウスイロイルカ(Sousa chinensis)の保全に関心が向けられており、このイルカの95%は水深15m未満の水域で発見されています。この個体群は非常に小さく、100頭以下と推定されており、おそらく孤立しているでしょう。岸近くの水域を好むので、特に人類の活動に由来する脅威に影響されやすいと考えられます。工業・産業開発等の深刻な圧力のなかで、研究者、産業関係者、NGO、政府は、しっかりした研究に根ざした情報の収集に努めており、現実的な保全と問題緩和の方策を求めて努力を重ねています。

○ コククジラ西太平洋個体群の保全とアジア東部並びに東南部の沿岸性海棲哺乳類の保全について
生物多様性の観点からすると、コククジラはヨウスコウカワイルカ(バイジー)のように、哺乳類のコククジラ科では唯一の生き残りです。ですから、コククジラが絶滅するようなことがあれば、バイジーの絶滅と同じくらい、あるいはそれ以上に壊滅的なできごとになるでしょう。しかし、コククジラはバイジーとは異なり、狭くて特異的な棲息地に定着しているわけではありません。それどころか、コククジラの近世までの分布は北半球の両大洋にまたがって、北大西洋の個体群が姿を消したのは17世紀以降ですが、それはおそらく捕鯨のためで、西太平洋個体群はかろうじて捕鯨による絶滅を免れました。数個体が商業捕鯨時代を生き抜いて、現在の個体数は120〜140頭で、ゆっくり増加しています。東太平洋の個体群も、捕鯨によって大量に捕獲されたため、ひどく減少しましたが、現在では約20,000頭が確認されています。岸近くの海域を離れられないので、捕鯨がなくなったとしても、彼らの存在は危うい状態です。そのほかのアジアの沿岸や河口に棲む種と同様に、漁具による事故死や、その他の、例えば石油流出を含む毒性物による海の汚染、船舶との衝突、そして、水中の騒音など、あまりわかっていない脅威による危機にさらされています。これらの脅威は、沿岸域の都市化や工業化によって悪化して、さらに人類の人口動態、経済成長、気候に起因する急速な環境の変化などによっていっそう悪化しているようです。焦点を絞った、積極的な対策がとられない限り、東アジアと東南アジアの沿岸性の海棲哺乳類の将来は明るくならないでしょう。