2010-08-20

日本最古の鉱物の示す真実 --- 日本列島が出来た場所とは?


日本列島はどうやって出来た?--- 小さな「粒」から考える「日本列島の起源」




■「古い」ジルコンの年代とその起源
2つの試料はたくさんの古いジルコンを含んでいましたが、ひとつの試料は1937 Ma(約19億年前)を中心とした年代を示し、もう一方は、それらの年代のジルコンを全く含まないで、3500 Ma(約35億年前)より古いものを中心に含み、最も古い粒で3750 Ma(約37億年前)を示しました。これまで日本から報告された最古の砂粒(鉱物)の年代は約34億年前を示す年代でしたので、今回報告された年代は、最古の砂粒の年代を更新したことになります。

 宇奈月地域の中圧変成岩の上部を構成する岩石(流紋岩質片岩という岩石から成ります。)が形成された年代は258Ma(約2億5800万年前)であると判明しています。したがって、年代から、花崗岩などはそれより後に入り込んできた(貫入した)事がわかります。そして、花崗岩に含まれる「古いジルコン」は、宇奈月地域の変成岩の元の岩石が堆積した「基盤」の岩石の情報を示していると考えられます。

昔から、この変成岩が堆積した基盤の岩石は“飛騨片麻岩”と呼ばれる大陸地殻の岩石であると考えられてきました。しかし、この花崗岩に含まれる「古いジルコン」の年代は“飛騨片麻岩”の年代とは一致しなかったのです。むしろ、19億年の年代は、大陸側の岩石でも韓国中部のBusan gneiss complex(プサン片麻岩複合体・韓国南部の都市の釜山とは無関係)や日本の隠岐片麻岩に対比する事が出来ました。プサン片麻岩複合体は、北中国と南中国との衝突帯の当方延長と考えられている沃川帯(Ogcheon Belt)が堆積した基盤と考えられており、それを考慮すると、宇奈月地域と沃川帯の中圧型変成岩類が堆積した基盤には共通点があるのかもしれません。

日本列島には、大陸地殻としてできた岩石(飛騨片麻岩)や大陸の浅い海でできた堆積岩(南部北上帯の石灰岩や砂岩・泥岩)があります。また、大陸から運ばれた物としては、20億年前の礫や30億年以前の岩石由来の鉱物(ジルコン)を付加体のなかで見つけることができます。これら大陸起源と考えられている岩石や砂粒は、年代や変成作用などの特徴から中国や朝鮮半島に分布する岩石と対比されます。

現在アジア大陸は大きな1つの大陸ですが、数億年前までは、現在の中国の北部(北中国地塊;中朝地塊ともいわれます。)と南部(南中国地塊;揚子地塊とも言われます)はそれぞれ別の小さな大陸で離れていたことが知られています。3600 Ma(36億年前)より古いジルコン年代は、東アジア地域では北中国地塊の北東部からしか見つかっていませんでした。今回発見された中で、最も古いジルコンは3750 Ma(37億5千万年前)を示していて、これまで報告されていた日本最古のジルコン(33〜34億年前)を大きく上回り、「日本最古の砂粒」の記録を更新する結果になりました。

従来から、日本列島は“南中国地塊”の縁で形成された付加体と考えられていましたが、今回の「古いジルコン」の年代は、現在は日本列島の一部である“宇奈月地域”と“北中国地塊”が密接であったことを示しています。また、“宇奈月地域”は日本列島の付加体や飛騨帯とは異なる起源を持つという証拠となるものです。地質的な位置関係として、どうしてそのような並列の関係が出来上がったのかを考える事は、日本列島形成の歴史を解き明かすために重要な鍵になるでしょう。

■補足:日本最古の○○について

・日本最古の化石(1990年代後半発見)
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷岩坪谷の地層(凝灰岩)から見つかったコノドント(無顎類の歯の化石と考えられている)で、古生代オルドビス紀中期〜後期(約4.72〜4.39億年前)のものとされています。当館日本館3F北翼にも展示されています。なお、最近の年代測定によると、この地層が堆積したのは472±17 Ma(4.72億年前)とするデータもあります。古い岩石は何らかの変成作用を被っている事が多いので、化石を産する「純粋な堆積岩」としては日本最古と言えます。

・日本最古の地層(今年8/18日に報道)
2008年に同様の報道がなされ、後日論文が出されました(5億6百万年)が、今回はそれより古い地層(5億1100万年)が茨城県常陸太田市長谷町から同じ研究グループによって発見されたと報道されました。現在の所、情報は報道しかないのではっきりした事は言えませんが、地層の中に石英長石質岩(火山岩ないしは凝灰岩と思われる)の層があり、年代を測った所そのような年代を示したそうです。ただし、この地層は変成作用を受けているので、「堆積岩」というよりは「堆積岩起源の変成岩」で、恐らく今後も化石が発見される事はないと思われます。日本列島の歴史をどこまで追跡できるか、というのは日本の地質学者の一大命題であり、新しい手法を用いて今まで「見えなかったもの」が見えるようになったという意味でも大きな成果といえます。

・日本最古の岩石(1970年年代前半発見)
岐阜県加茂郡七宗町のジュラ紀の堆積岩である「上麻生礫岩」に含まれていた片麻岩礫がかなり古いであろうことが報告され、その後の分析で20億年である事がわかりました。20億年の岩石は朝鮮半島に広く分布しているため、この礫はジュラ紀に朝鮮半島から運ばれて堆積したものであると考えられます。礫は砂に比べると大きく、それほど遠くに運ばれることはないので、日本海形成前の日本列島が朝鮮半島近傍であった事を示す証拠の一つになっています。


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