2010-11-25
ノーベル賞2010から --- 科学への興味を広げてみよう!
「触媒」のパラジウム!とは?
■ 「触媒」のパラジウム!
「触媒」とは、反応する物質同士を効率よく引き合わせることで、化学反応を促進する物質のことです。反応の前と後とで、触媒自体は変化しません。触媒には様々な金属を使用することが多いのですが、パラジウム(Pd)を触媒とした有機合成を世界で最初に行った人は、日本人研究者の辻 二郎博士でした。炭素と炭素を単結合させることを実現しました。
今回の受賞者の一人であるヘック博士は、1972年に、パラジウム(Pd)を触媒として用いて、新しい炭素のつなげ方を成功させました。それは、炭素の二重結合を持つ化合物について、他の有機化合物と単結合でつなげることに成功しました。これはクロスカップリング反応ではありませんが、それに直接つながる重要な研究でした。しかも、その直前に日本人研究者の溝呂木 勉博士が、同様の反応を発見しています。そのため、最近ではこの方法は、「ヘック−溝呂木反応」とも呼ばれています。残念ながら、溝呂木 博士は1980年に47歳でお亡くなりになったので、ノーベル賞の対象になりませんでした。
さらに、根岸博士の作り上げた手法は、触媒にパラジウムを用いて、化合物をつなげる目印として亜鉛(Zn)を用いる方法を見つけました。これによって、とても正確にクロスカップリングを行うことが出来る用になりました。その方法は、1977年に発表され、根岸カップリングと呼ばれています。
そして、鈴木博士が生み出した方法、鈴木カップリングは、化合物をつなげる目印としてホウ素(B)を用いる方法です。非金属のホウ素を使うことで空気中や水分のあるところでも合成できるようになり、“手軽で使いやすい手法”となりました。当時、鈴木研究室の助手だった宮浦憲夫博士との共同研究で発見されましたので、「鈴木―宮浦カップリング反応」とも呼ばれます。これによって、どんどん新しい応用が生まれていきました。触媒に用いる元素と、化合物につける目印になる元素の組み合わせを最適した方法と言えます。
国立科学博物館では、2003年11月22日(土)に化学実験講座(大学生以上、主に教員向け)において、鈴木クロスカップリングを題材とした実験講座を開催いたしました。「水中、空中下で、炭素と炭素をつなぐ」というテーマで、東大生産技術研究所の工藤一秋教授(当時助教授)が講師をされました。来年(2011年)2月26日(土)の化学実験講座でも工藤先生に「高校でもできる鈴木カップリング反応」と題してしていただけることになりました。
当館の常設展示をじっくり見学したり、プログラムに参加したりして、その中から興味をあることを是非見つけてください。そこから未来のノーベル賞につながるような大きな飛躍があるかもしれません。
参考文献
Newton 2010年12月号
日経サイエンス 2010年12月号
現代化学 2010年12月号
子供の科学 2010年12月号
協力・監修
理工学研究部 若林文高