2008-09-25

マリントキシン−毒を持つ魚介類に注意!− (協力:コレクションディレクター 松浦啓一)

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温暖化が原因?シガテラ毒の発生域北上
自己判断は禁物,フグの毒
日本人のフグ食の歴史
貝の種類に依らない危険−貝毒

温暖化が原因?シガテラ毒の発生域北上

 『シガテラ』という食中毒を知っていますか?熱帯や亜熱帯の海域に生息する有毒の渦鞭毛藻Gambierdiscus toxicusなどが産生する複数の毒素が原因となる食中毒で,それら藻類を食べた魚介類を口にしたヒトに被害を及ぼします。死亡率は高くないものの発症者は年間2万人以上,細菌以外の自然の毒を原因とする食中毒では世界でも最大規模の被害を出しています。
 日本でも沖縄や奄美諸島など一部の亜熱帯地域では古くから知られていましたが,近年本州でも散発的ながら複数発生しており注意が必要です。

 シガテラを引き起こす毒素は総称でシガテラ毒と呼ばれ,シガトキシン,スカリトキシン,マイトトキシン,シガテリンなどが知られています。シガトキシン(C60H86O19)は非常に強い神経毒で,生産者である藻類から藻類食の魚類へ,更には肉食の魚類へと食物連鎖によって濃縮され,主に肝臓に蓄積されます。
 熱に対して安定で,調理では分解できません。また仮に魚が汚染されても味も臭いも変わらないため,危険かどうかを見た目や味で判断する方法はないというのが現状です。

 シガテラ毒の保有者とされるのは,熱帯・亜熱帯由来の魚が中心ですが総種数は数百種類とも言われ,ブリ,カマス,カンパチ,ヒラマサなど私たちの食卓に馴染み深い魚も含まれています。
 これらの魚種の全ての個体が危険,という訳ではなく,同じ種類の魚の中でも地域差や個体差があります。日本国内で流通している魚については今のところほとんど問題はないとされていますが,個人で釣り上げた魚,海外で食べる魚には注意が必要です。

 シガテラ毒の主な作用は,神経細胞や筋繊維のナトリウムチャンネルに作用し,細胞内へナトリウムイオンを過剰に取り込ませることです。ナトリウムイオンは神経系の情報伝達や筋肉の収縮の際に細胞に取り込まれますが,これが過剰となることで様々な異常が起こります。具体的には吐き気やめまい・頭痛・筋肉の痛み・麻痺・感覚の異常などの神経系の異常と,腹痛や下痢・嘔吐など消化器系の異常,血圧や心拍数の低下など循環器系の異常があります。特徴的な神経症状のひとつドライアイス・センセーションは,温度感覚に異常が生じるため暖かいものに触れても冷たく感じ,水に触れるとドライアイスに触ったような冷たさを感じるためにこの名があります。
 1匹の魚に含まれる毒量が後述するフグと比べるとごく微量のため,発症しても死にいたるほど重症化することは稀ですが,回復が非常に遅いのも特徴で半年から1年近く掛かることもあります。

 本州で報告され始めた原因は温暖化による渦鞭毛藻の生息域の拡大が原因とも言われ,今後ともこの傾向が続く可能性が高いため,汚染された魚を魚市場等で短時間で判定できる検出方法と,シガトキシン抗体(ワクチン)の開発が急務となっています。


写真:東海地方でシガテラの発生例のあるイシガキダイとシガトキシン
 (いずれもWikipediaより)


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