2014-07-16
「発見する眼」を次の世代へ −標本図の技術を伝える筑波実験植物園の取り組み
標本図はなぜ必要か
左:前ページの標本図のもとになったシテンクモキリの押し葉標本。標本は研究に不可欠な資料だが,そのままではもとの形を正確に知ることがむずかしい 中央,右上下:シテンクモキリの写真。写真は色彩や雰囲気を記録するすぐれた方法だが,すべての部分の形の特徴を捉えることはできない
標本図とは何でしょうか?生物の研究では,証拠とする標本を作って保存するのが原則です。生物には寿命があるうえ時間とともに特徴が変わるので,標本にしない限り記録としてとどめることができないからです。研究者は標本を使って解析し,わかったことを図に起こして発表します。つまり図は研究の一部です。したがってデータとして使える図を作ること,標本から生きているときの特徴を再現することは,植物画(ボタニカル・アート)を描くのとは違った技術が必要です。そこで標本図,あるいはサイエンティフィック・イラストレーションという言い方で区別します。
いまや携帯電話で写真を撮って動画さえ見ることができる世の中です。図にこだわる必要はないように思えます。ところがカメラは,物体のすべての部分にピントのあった記録を残すことができませんし,不要な情報まで写してしまいます。また生物の特徴は複数のサンプルを使って,さまざまな角度で観察することによってはじめて捉えることができますが,写真はひとつのサンプルの,ある位置から見た画像に過ぎません。このように生物の特徴を再現するには,ヒトの眼で統合した情報をペンで記録するのがもっともすぐれた方法です。まさに標本図は「発見する眼」なのです!