クロマグロは絶滅危惧種?:大西洋のクロマグロを巡る問題 (協力:動物研究部 篠原現人)
日本の食卓に上るマグロたち
『マグロ類』はスズキ目サバ亜目サバ科マグロ属に属する魚類の総称です。
クロマグロを含めたくさんの種がいますが,いずれも紡錘型の体と三日月型(鎌型)の大きな尾びれを持ちます。背びれは2つあり, 第2背びれとしりびれの後ろに複数の小さなひれ(小離鰭)が見られます。サイズは種によって異なり,成長しても60センチほどにしかならない種がいる一方で,3メートルに達する種もいます。
海の食物連鎖の中でも上位に位置する肉食魚で,魚やイカなどを食べています。
水中では口と鰓蓋を開いて泳ぎ,鰓から酸素を取り入れています。泳ぐのを止めると呼吸ができないため,寝ている時にも泳いでいます。後に詳しく紹介しますが,これがマグロ養殖を難しくしている原因のひとつでもあります。
日本で食べられているマグロにはクロマグロや他にいくつかの種があります。
分類学的には太平洋にいるものをクロマグロ(
Thunnus thynnus orientalis),大西洋産にいるものをタイセイヨウクロマグロ(
Thunnus thynnus thynnus)として2亜種にわけますが,両者を別種とする考えもあります。大西洋のものの方が太平洋産に比べて寿命が長く,より大きく,より重くなるという報告もあります。
クロマグロの特徴のひとつはその大きさです。太平洋産の最大級のもので体長3メートル,体重は300キロ。大西洋のものでは体長4.5メートル,体重は680キロを超えるとの情報もあります(NEDO:新エネルギー・産業技術総合開発機構の報告より)。
背側が青黒く,腹側は銀色。尾びれ以外のひれはそれほど大きくありません。
他の種と比べ脂質が豊富で(特に腹部の脂身の部分を指してトロと呼んでいます),成魚では水温7〜8℃までの比較的寒冷な海でも生息することができます。
いずれも広範囲に回遊していることが知られており,太平洋のクロマグロは日本沿岸から北米沿岸まで,大西洋では地中海からメキシコ湾,アメリカの南西部沿岸付近で見ることができます。
クロマグロに次いで体が大きいのがミナミマグロ(
Thynnus maccoyii)で,インドマグロという名前で店頭に並びます。南半球,南緯30〜50度の冷たい海に分布しており,クロマグロと同じように脂質が豊富です。食べ方もクロマグロに似ており,刺身や寿司として好まれています。
体長は約2メートル,体重は180キロほどになります。遠洋漁業での漁獲量と輸入量を合わせて,世界の漁獲のほぼ100%が日本で消費されています。
キハダマグロ(
Thynnus albacares)はその名の通り,体やひれが黄色味がかっているのがいるのが特徴です。成魚では第2背びれとしりびれが長く伸びています。
世界中の熱帯域や温帯域に広く分布しており,日本近海でも見られます。体長は1.5メートル程度が普通ですが,2メートル近い個体が釣りで漁獲されたとの報告も少なくありません。
淡白で赤身が多く,脂質はは少なめで,オイル漬けなどにされて缶詰として世界的に消費されています。日本では主に関西で人気があり,関東での流通量は多くありません。
メバチマグロ(
Thynnus obesus)もその見たとおりの大きな眼から名づけられています。体長は2メートル前後になり,他のマグロ類よりもずんぐりとした体型をしており,若魚は特にダルマと呼ばれることもあります。
分布域は世界の熱帯域〜温帯域ですが,地中海にはいません。日本近海にも回遊してきます。
赤身が多く脂質は少なめで,刺身,漬けなどにしてよく食べられます。キハダとは対照的に,関東でよく食べられています。
ビンナガ(
Thynnus alalunga)は他と比べると小型で,体長は1メートル前後です。一般に亜熱帯や温帯の海域に生息しています。胸びれが長いのが特徴で,その先端は第2背びれの後端よりも後ろまで達しています。
肉は淡白で,缶詰に多く利用されますが,焼物,唐揚などでも食べられています。脂ののった部分の刺身は,ビントロと呼ばれます。鶏肉に似た食感から,欧米でも良く食べられている種です。
カジキマグロはメカジキ,マカジキなどカジキ類をさす名称ですが,分類学上はマグロ類とカジキ類は別物です。カジキ類はスズキ目カジキ亜目に属し,マグロ類はサバ亜目に含まれます(輸出入などの一部統計ではマグロ類と合算されていることがありますが,今回掲載した数値では該当するものはありません)。
写真:クロマグロ(国立科学博物館 魚類写真資料データベース)