2009-11-15

クロマグロは絶滅危惧種?:大西洋のクロマグロを巡る問題 (協力:動物研究部 篠原現人)


マグロを守るための取り組み:効果的な漁獲規制を求めて

 さて,ここまでは主に天然のマグロ類について述べて来ました。
 私たちの口に入るマグロ類には養殖ものもあります。
 一般的なマグロ養殖は蓄養法という方法が使われ,自然環境である程度の大きさまで育ったものを捕獲して,生け簀の中で育てます。数ヶ月の間,生け簀のマグロ類には魚やイカを与えますが,運動量が少ない一方で高カロリーの餌をたべるので,筋肉に脂質が溜まりやすく,結果としてトロの部分が多くなります。
 魚の養殖には良い場所や良い餌の確保などの苦労がありますが,天然のマグロ類を直接食べている訳ではないため,資源の保護のためには有益であるようなイメージがあります。しかし蓄養では卵や稚魚ではなくある程度育った魚を捕獲するため,天然の資源量への圧迫は少なからずあります。
 さらに,養殖魚は漁獲された国と別の国に運ばれて育てられることもあるため,正確な漁獲量や流通量の把握を難しくしています。実際,国産として流通している養殖クロマグロについてWWFがDNA鑑定したところ,ごく一部にタイセイヨウクロマグロらしきものが混入していたことが明らかになりました。


 大西洋をはじめ世界のマグロ資源の維持や管理のため,各地域で国際的な保護・調査・研究が行われています。

 タイセイヨウクロマグロの保護にあたっているのは,最初のページでもご紹介したICCATです。1969年に大西洋のマグロ類の保存のための国際条約(略称は同じICCAT)に基づき,同年設立されました。スペインのマドリードに本部があります。
 ICCATの主な機能は,大西洋のクロマグロ・メバチ・キハダ・ビンナガ各種のマグロ類とメカジキなどのカジキ類の保護です。
 クロマグロについては小型魚の漁獲と販売の禁止,繁殖期の親魚の漁獲の禁止および総漁獲量の規制を行っています。特に資源量の減少が懸念される地中海では,漁業を規制し,飛行機,ヘリコプターなどを使った漁業支援も禁止され,違反操業が行われないよう,漁船への監視も行っています。
 2008年次に定められた2009年ならびに2010年の総漁獲量は,西部大西洋で1,900トンと1,800トン,東部大西洋では22,000トンと19,950トンで,2011年は18,500トンです。日本は更に総量規制が必要だと主張しましたが,ヨーロッパ,アフリカなどの一部の国が自国の漁業者の保護するためとして反対し,この数値となりました。
 この規制は必ずしも守られているとは言い難い上,蓄養向けの捕獲については総量の把握ができていないことから,環境保護団体などからは規制が甘すぎるとして批判を受けています。今回ワシントン条約での保護が提案されるに至った一因も,ICCATの規制への不安・不満にあるとの見方もあります。


 日本近海を含む太平洋のクロマグロについても,大西洋ほどではないものの,このところの漁獲量の減少や,漁獲される個体の小型化が心配されています。
 日本・中国・韓国などアジア諸国,EU,オーストラリア,アメリカなどが参加する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC,本部はミクロネシア連邦のポンペイ)は,2004年に発効した中西部太平洋まぐろ類条約に基づき,マグロ類など中西部太平洋に生息する回遊魚の持続可能な利用を目指しています。日本は翌年の2005年に委員会に加入しました。
 クロマグロについては合意していない国もありますが,各国が自主的に漁獲量を増やさない努力をすることとしており,メバチについても漁獲量の削減,集魚装置の一定期間使用禁止などを定めています。

写真:マグロの競りの様子(Wikipedia,本文の内容とは直接関係ありません)