2021-03-05
「令和2年7月豪雨」で被災した人吉城歴史館所蔵の植物標本レスキュー(Part.2)
浮き彫りになった課題、そして返還に向けて
全国に無数に存在している自然史標本。自然物を収集したものだとは言え、もう一度完全に同一のコレクションを採集して構築するのは不可能です。頻発する自然災害を完全に避けることは困難ですが、自然史標本の所有者・管理者は代わりのない資料であることを前提に、被災リスクを低減するための努力を払う必要があるでしょう。自然史標本は半永久に遺していく必要があるので、100年に1回レベルの自然災害を想定外とは言っていられません。災害時の迅速な対応を一つの目的として、国内のどこにどんな標本が何点保存されているかを集約したデータが公開されています
<リンク1>。しかし、人吉城歴史館の前原コレクションは存在が見逃されていました。その存在が知られていれば、水害発生後の初動までの日数が短縮できた可能性がある点は悔いが残ります。
コロナ禍での制約も多い中、当館を含む各地の受入館での修復作業は着々と進んでいます。しかし、人吉への返却までにはまだ時間がかかりそうです。まず、同規模の氾濫に耐えうる保存スペースが確保される必要があります。そして、費用面が自然史標本のレスキューに関する最大の課題として残っています。レスキューのための輸送費・作業物品の購入費・人件費等の予算は担保されていないため、2020年末の時点では全て受入側の負担や立替となっています。
現在は人吉へ返送する輸送費確保の努力が続けられています。早期に返却が実現し、郷土の自然の変遷の記録資料として活用されることを願ってやみません。
修復が完了して返送を待つ標本の山。