2008-07-25
皇居のタヌキ その生態 (協力:動物研究部 川田伸一郎)
皇居の杜にタヌキがいた!
東京都千代田区一番一号 ― 皇居。丸の内や日本橋など再開発の進む都心のすぐ傍にあり,上空から見ると大都会に浮かぶ緑の島のようにも見えるその場所には,今では都内ではほとんど見られなくなった貴重な動植物が生息しています。
国立科学博物館が1996年から2000年までの5年間行った生物調査では,クマムシ類・ササラダニ類・ワラジムシ類,ミミズ類など土壌性の小動物やガ類・ハバチ類などの昆虫類,さらに子嚢菌という菌類などで次々と新種が発見され,トンボ類ではベニイトトンボ・コサナエ・アオヤンマなど,現在東京都ではほぼ絶滅状態にあると考えられている種類が生存していることも判りました。それらを含めて,全体では3,638種の動物と1,366種の植物が確認されています。
哺乳類ではアズマモグラ・アブラコウモリ・ハクビシンがいずれも野生の状態で生息していることが明らかになりました。タヌキの糞と思われるものもこの時見つかっていましたが,実際の姿を確認するまでには至りませんでした。
皇居の中でタヌキを見たとする報告は,皇居を警備する皇宮警察の職員によって1970年代から複数回もたらされてきました。1990年代半ばからは特に数が増えてきました。宮内庁では2005年から,皇居内でタヌキを偶然目撃した場合その記録を残すようにしました。科学博物館では宮内庁からこうした情報を得て,2006年からタヌキの生息状況,及び生態の調査を開始しました。
タヌキには「ため糞場」と呼ばれる決まった場所で毎回糞をする習性があります。ため糞の分布状況を調べることで,タヌキの行動範囲を大雑把に予測できます。
ため糞場やタヌキの通り道と予想された場所に定点カメラを設置,何か動物がカメラの前を横切る度に自動的にシャッターが切れるようにしました。その結果,ハクビシンや鳥,ネコなどが写ってしまったものもありましたが,多くの場所ではっきりと,タヌキの姿を捉えることに成功しました。複数匹のタヌキが一緒に写ったものや,その年に生まれたと思われる子タヌキが写ったものもあり,皇居内にタヌキが生息・定着していることが確実に,また皇居内で繁殖しているらしいことをうかがい知ることができました。
写真:タヌキ骨格