クロマグロは絶滅危惧種?:大西洋のクロマグロを巡る問題 (協力:動物研究部 篠原現人)
大西洋のクロマグロ,商業取引に黄信号?
皆さんはマグロは好きですか?
刺身や寿司としては勿論,煮たり,焼いたり,揚げたりと利用法は様々。メインのおかずにもなれば,カナッペなどはおつまみとしても美味しくいただけます。
世界的に見ても,日本はマグロの一大消費国です。
2007年の統計では,世界のマグロ類の総漁獲量はおよそ175万トン(FAO:国連食糧農業機関調べ)。そのうち日本の漁獲量は25万6千トンほど(水産庁調べ)ですが,国外からの輸入が別に21万8千トンあり,併せると世界全体の約27%が日本で消費されています。
特に日本での消費がずば抜けて多いのがクロマグロ(地方名:ホンマグロ,シビ)です。同じく2007年のFAO,水産庁の統計では,世界全体の年間の漁獲量は約5万トン。WWFなどによれば,そのうちの約8割が日本で消費されています。
このクロマグロの資源量が,大西洋・地中海を中心に,近年大きく落ち込んでいます。継続的な繁殖に必要となる親魚(成熟した魚)の総重量を漁獲量などから推定すると,西経45度を境界として,西部大西洋海域では1980年代以降,1970年代と比べ1/4以下(東部西部共に水産庁・水産総合研究センター発表)に減少しています。1990年代には下げ止まったと思われる時期もありましたが,回復の傾向は見られないままです。東部大西洋でも,特に大型の個体で漁獲による死亡率が大きく上昇しており,親魚の量は減っている可能性が高いと懸念されています。
更に,公式な統計には表れないところで,違法かつ過剰な漁が行われている可能性が示唆されています。
詳しくは後半のページで述べますが,大西洋のクロマグロについては日本を含め40ヶ国以上が参加するICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)が保護管理・調査研究にあたっており,禁漁期間の設定や漁獲量の制限を行っています。一定の期間漁獲を制限することで,将来的に持続可能な利用ができる状態になるまで,資源量の回復を待とうという考えであり,日本もこれに合わせて遠洋マグロ漁船を減らすなどの協力をしています。
しかしICCATの科学委員会は,漁獲制限は守られていない可能性が高いとしています。例えば2007年の東部大西洋の漁獲可能量は29,500トンとされていましたが,実際の漁獲量は公式で32,400トンで,この時点で既に1割程度超過しています。これに加えて過少報告や密漁が横行しているとされ,全体の漁獲量は最大で61,000トンにも上ったと推定されています。
このような状況を受けて,西ヨーロッパのモナコ公国が10月,来年3月に開催されるワシントン条約締約国の会議に向けて,大西洋のクロマグロをワシントン条約附属書Tに記載することを提案したと発表しました。ワシントン条約附属書Tには「絶滅のおそれのある種であって取引による影響を受けることのあるもの(外務省HPより転載)」が記載され,対象となった生物は相手国の許可なく輸出入することができなくなります。
EUは当初モナコとの共同提案を目指しましたが,スペイン・イタリアなどの漁業国の反対により意見はまとまっていません。
アメリカはこれとは別に,大西洋以外のものも含めたクロマグロの全面輸出入禁止案を検討していると報じられています。
日本で消費されているクロマグロのうち,約6割が大西洋・地中海から輸入されています。仮に輸出入禁止となれば,市場への供給量や価格への影響は避け難いものと考えられます。
提案が採択されるためには,全投票の2/3の投票が必要なため,今回採択となるかどうかは今のところはっきりしません。しかし仮に禁輸とならなかったとしても,大西洋のクロマグロ資源の維持のために,最大の消費者である私たちは,資源状況を良く理解し,資源管理への理解や協力を一層高めていく必要があることは間違いないでしょう。
写真:寿司(Wikipedia,上段左から1つめ:中トロ,3つ目:赤身)