2009-10-15
ヒトの進化を遡る ― 新発表『ラミダス猿人』化石 (協力:人類研究部 河野礼子)
私たちは何処から来たか?
『私たちは何処から来て,何処へ行くのか?』 ― 私たち人間はこの問いを何度口にし,また何度耳にしたことでしょう。
古くは多くの宗教が世界と人類の始まりを伝え,また終わりを来たるべきものとして語ってきました。神話や文学,絵画や音楽を通じて,私たちは時に見てきたように鮮やかに,人類世界が始まり,そして終わる図を手にしてきました。
西洋科学がこの問題に対して積極的に取り組むようになったのは19世紀。フランスのラマルク,イギリスのダーウィン,ドイツのヘッケルなどが相次いで『生物の進化』を唱えて以降のことです。人間を含め現在存在する全ての生物が,過去に存在した別の生物から進化してきた可能性が示唆されて以来,私たちは私たちに繋がるルーツ,私たち以前に生きた『ヒト』たちを探し続けています。
人類は『いつ』『何処』からやって来たのでしょうか?『何』が,或いは『誰』が,私たちの起源となったのでしょうか?
今回そのヒントのひとつを与えてくれたのが,今から約440万年前の猿人,
Ardipithecus ramidus(以降,『アルディピテクス』または『ラミダス』と書きます)です。
1992年,アフリカ・エチオピア北東部アファール地溝帯で発見(命名は2年後)され,以来17年に渡って国際的な調査・研究が行われてきました。
アルディピテクスは人類が類人猿との共通祖先から分かれたとされる時代以降のヒト科の中でも比較的古い時代の化石です。
アルディピテクスは森林に暮らし,時には木に登り,時には地上に降りて二足歩行を行っていたと考えられています。どちらにもそれほど特化しておらず,森林生活からより開けた平原での生活へと移行していく過渡期にあたるように見えます。
脳の大きさはチンパンジーやボノボなどと同じ300ccほど。
顔は鼻面が前に突き出しており『類人猿的』ですが,例えば現生のチンパンジーに比べると顎などが奥に引っ込んでいること,オスでも犬歯が小さいことなどは私たちに近いと言えます。頭蓋骨と脊髄の繋がりを見ると首が顔の後ろではなく下にあったことがわかり,二本の脚で立ち上がった時,正面を向くのに適していたと考えることができます。
食性は植物や小動物の肉などを食べる雑食で,チンパンジーが熟した果物を好んで食べるようなはっきりしたこだわりはあまりなかったと考えられます。より新しい時代の猿人では森を出て平原の硬い食べ物を摂ることに適応した歯が見つかっていますが,ラミダスではそれもありません。
男性と女性の骨格を比較してみると,男女の身体の大きさにはあまり違いがないことも判りました。一部の類人猿のように,身体の大きなオスがメスを独占していた訳ではなさそうです。
原始的な部分も多くありながら,私たちに似ているところも少なくないアルディピテクス。今回のホットニュースではアルディピテクスのひとりの女性を中心に,アルディピテクス・ラミダスの種の特徴と,そこから見えてきたヒト科の進化のシナリオをご紹介します。
まとめ
@ アルディピテクスは今から約440万年前の猿人です。
A 二足歩行を行っていましたが,平原・森林どちらの生活にも特化していません。
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写真:
Ardipithecus ramidus頭骨(提供:東京大学総合研究博物館)
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