1.ストランディング個体を活用する海棲哺乳類の研究 【第1期:平成18〜21年度】
ア.調査、標本収集
20都道府県において、ヒゲクジラ3科3個体、ハクジラ4科99個体、計102個体の調査、標本採取を行った。これらの調査に当たっては、各自治体の他、各地の博物館、水族館、大学、研究機関など、40組織と多数の個人の協力を得た。これらの個体については、生物学的データ、骨格標本、分子生物学や汚染物質の分析用サンプルなどを採取し、調査研究を進めている。
※以下、カッコ()に協力を得た組織名を示す。
●病理学的解析(鳥取大学)
病理学的調査を行うことができたのは46個体である。傾向としては溺死を示唆する肺水腫が多いが、重篤な寄生虫感染症、循環器障害などが見られた個体がある一方で、スナメリやカマイルカなど漁労活動の影響によると思われる死亡個体も少なくなく、保全のためには重要な知見である。詳細な死因の解明など鳥取大学農学部の協力のもとに解析中である。これらの研究成果の一部はBiennial Meeting of Marine Mammal Science(2007年12月南アフリカで開催)や国際誌で発表した。
●DNA解析による個体群解析(京都大学、帝京科学大学)
茨城県、鹿児島県などでマスストランディングしたカズハゴンドウ(Peponocephala electra)のDNA解析により、これらの個体群が別個のものである可能性を明らかにした。これらの研究成果の一部はBiennial Meeting of Marine Mammal Science(2007年12月南アフリカで開催)で発表した。
●分子生物学的手法によるウイルス疾患解析(九州大学、海洋科学技術センター)
ストランディング個体からヘルペスウイルスを検出し、その影響を解析中である。
●環境汚染物質調査(愛媛大学、自然環境研究センター)
オウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri)、スナメリ(Neophocaena phocaenoides)、カズハゴンドウ(Peponocephala electra)について、内分泌攪乱物質などの有機塩素系化合物、重金属類の蓄積について解析を行い、棲息海域による汚染物質蓄積状況の解析を進めている。特に、スナメリについては汚染物質蓄積と免疫能の関係について解析を進めている。
●生物学的調査研究(帝京科学大学、京都大学、東京海洋大学、日本大学、筑波大学)
水中生活への再適応の経過を明らかにするため、海棲哺乳類の頭部、肢帯の比較形態学的研究を進めている。胃内容物解析による鯨類食性の研究(海生無脊椎動物研究グループ、東京海洋大学、日本大学)ではストランディング件数が多いオウギハクジラ(Mesoplodon stejnegeri)、スナメリ(Neophocana phocaenoides)、シャチ(Orcinus orca)を中心に、胃内容物解析による食性解析を進めている。これらの研究成果の一部はIWC(2007年5月アメリカ合衆国で開催)で発表した。また、鯨類の胃の特殊な構造について解析を開始した。
なお、以上の研究に関連する情報収集、現地調査にあたって多くの自治体およびその関連部局、独立行政法人、公私立水族館および博物館、大学・研究機関の協力を得た。
イ.ネットワーク構築活動
1)水産庁、動物園水族館協会との連携
水産庁ならびに動物園水族館協会との協議を進め、ネットワーク活動の確立による海棲哺乳類研究基盤確立を目指している。
2)北海道におけるストランディングネットワーク構築協力
平成19年4月に発足した北海道ストランディングネットワークへは発足時から構築を支援しており、平成19年9月には酪農学園大学の協力を得て海棲哺乳類のストランディング対応に関するワークショップを開催した。また、平成19年10月には、愛媛大学沿岸環境科学研究センターのシンポジウム企画に協力し、環境汚染物質の海棲哺乳類に対する影響評価の可能性を強調した。
3)国立科学博物館研究活動の広報
平成19年4月に開催した国立科学博物館オープンラボではイルカ(ネズミイルカ科)の解剖の公開と解説を行った。4)地方博物館などの活動支援
国内各地における海棲哺乳類のストランディング対応に際し、助言や調査協力などを行うことにより海棲哺乳類研究の推進に努めている。平成19年度には、「日本海のクジラたち」国立科学博物館コラボ・ミュージアムin富山(11月17日〜12月16日)を富山市科学博物館で開催することにより、一般の関心を喚起する努力を継続している。